苫小牧市再生可能エネルギー基本戦略

北海道苫小牧市における2050年のゼロカーボンシティ実現を目指し、
自治体や地元企業等と一体となって、エネルギー戦略の立案に取り組みました。

エグゼクティブサマリー

  • EPIは北海道苫小牧市から委託を請け、再エネ導入目標の設定、及び再エネ導入のための戦略を策定した。
  • 苫小牧市は2050年までにゼロカーボンシティを目指すことを宣言しており、同市は我が国初となるCCS(二酸化炭素回収・貯留)の大規模実証やNEDO (新エネルギー・産業技術総合開発機構)カーボンリサイクル事業を実施しており、それら特徴を活かした脱炭素シナリオを策定した。
  • 戦略策定にあたっては、地元事業者、苫東工業団地、近隣の厚真町、安平町等のステークホルダーと対話を重ね、太陽光、風力を中心に2,271MWの再エネ導入目標を定めた。
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イントロダクション

 苫小牧は製紙業の進出を皮切りに発展してきた都市であり、北海道唯一の製油所、石炭火力発電所等が立地している道有数の産業拠点である。また、国内最大の工業基地である苫東が立地しており、北海道の貿易拠点である苫小牧港を有するほか、新千歳空港にも近く、今後も新たな産業の進出が期待されている。

 エネルギー関連では、我が国初となるCCS大規模実証が行われたほか、NEDO事業にて二酸化炭素を資源として再利用するカーボンリサイクルや、水素活用等の検討がなされており、苫小牧市は2021年8月に2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言した。

 このような背景のもと、道有数の産業拠点である苫小牧市の脱炭素化に向けて、苫小牧市や地元関係者との綿密な連携のもと、再エネ導入目標と苫小牧の特色を活かした実行戦略を定めた。

脱炭素シナリオ

 苫小牧市で排出されるCO2は、市外への電力供給も担う発電所からのCO2を含めると1,276万トン、苫小牧における最終エネルギー消費に伴うCO2排出量は497万トンである(Figure 1)。これを2050年に向けていかに削減していくかが課題となる。

Figure 1 苫小牧市のCO₂排出量(2018年)

*: 非エネルギー起源CO₂(製造業の一部、一般廃棄物、産業廃棄物が該当)約10万トンを除く。
環境省の地方公共団体実行計画(区域施策編)策定・実施マニュアルによれば、指定都市、中核市でない自治体は、鉄道、船舶、航空、産業廃棄物に関しては、必ずしも算出の必要は無いとされているが、総合的な戦略策定のため、本報告書では対象に含めた。

 苫小牧市のCO2排出の特色としては、産業セクターのCO2排出量が68%を占め、特に自家発によるCO2排出が多いこと、及び寒冷地であることから民生セクターの熱需要が多いことが挙げられる(Figure 2)。脱炭素の実現のためには、CO2排出量の約4割を占める自家発の再エネ転換が必要であり、続いて約3割を占める熱源に対して合成燃料、メタネーション、水素・アンモニア導入を行うほか、火力発電へのCCS導入またはアンモニア混焼、運輸セクターの電化促進及び合成燃料の導入が必要となる。

Figure 2 脱炭素対応策

*: 非エネルギー起源CO₂を除く。全部門エネルギー消費は簡単化のため主要用途/主要燃料で表示。

 脱炭素対応策別のエネルギー消費削減量及びCO2削減量をFigure 3に示す。まず、自家発で使用されている石炭や石油を再エネ転換することで145万トン、灯油等の熱源や自動車の電化を促進し、再エネを導入することで19万トン、電化により増加した電力も含めたすべての電力を再エネ化することで65万トンのCO2を削減する。

 続いて、石炭火力へのCCS導入により44万トン、電化が困難な長距離輸送車への合成燃料導入により48万トン、同様に電化が困難な熱源へのメタネーション導入により91万トン、水素・アンモニア導入により35万トンのCO2を削減する。

 2050年までにこれら施策を実施することで、再エネ導入により230万トン、再エネでは対策できない熱源や運輸等については、CCUS・カーボンリサイクル推進により183万トン、水素・アンモニア導入により35万トンのCO2を削減し、カーボンニュートラルを達成するシナリオとした。

Figure 3 脱炭素シナリオ(2050)

*: 非エネルギー起源CO2を除く。 出所) 各種統計よりEPI推計

再エネ導入目標

 再エネ導入目標の検討にあたっては、脱炭素化に必要な導入量の推計だけでなく、苫小牧が持つ豊な環境への配慮を踏まえた計画とする必要がある(Figure 4)。具体的には、当市はラムサール条約に登録されたウトナイ湖や弁天沼などの鳥類の飛来地をはじめ、支笏洞爺国立公園など豊かな自然環境を有しており、静川遺跡等の文化財や海洋生物が豊富に存在することから、それら地域周辺に再エネを導入する場合は、各ステークホルダー及び自然環境への十分な配慮が求められる。

Figure 4 立地と配慮事項*

*: 当市関係者へのヒアリングにより再エネ導入にあたって配慮すべき自然環境や文化財の主たる所在地を記載。再エネ導入にあたっては、周辺住民の理解や関係者との合意形成等が求められる。 また、苫小牧東部地域は特定猟具使用禁止区域に指定されている。

 上記の自然環境への配慮が必要なエリアを除く、太陽光及び風力の導入ポテンシャルを分析した結果をFigure 5-6に示す。太陽光は、市街地への屋根置き太陽光の導入ポテンシャルとして、住宅95MW、公共施設23MW、産業・商業用建築物23MWの計135MW、地上設置型太陽光は未利用地への導入で800MW、農地の10%に営農型太陽光の導入を見込み28MWと設定した。 風力は、2022年時点で計画中の風力38MWのほか、風況の良い未利用地等にて400MW-800MWの大規模な導入を想定した。

Figure 5 太陽光発電

*: A1について、住宅は戸建て住宅を対象に2030年に新設60%、2040年に新設100%が太陽光発電を導入し、既設についても毎年1%の割合で太陽光発電が導入されると想定し、2050年までに95MWが導入されると想定した。公共は195件の公共施設の各々の延床面積に環境省の導入ポテンシャル調査で使用された設置係数を乗じて算出した。商業/産業は公共と同程度のポテンシャルを見込んだ。A2について、主に市街地の市有地及び民有地の未利用地の50%に太陽光発電を導入、その他は工業団地等への導入を見込んだ。A3について、農地の10%に営農型太陽光発電を導入すると想定した。日射量マップは環境省REPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)より作成。

Figure 6 風力発電

*: 計画中の風力はFIT認定済みだが運転開始していない風力発電を計上した。その他風力は道内の他地域の風力発電導入計画を鑑みて、風速6.5m/s以上の風況の良い地域への導入を見込んだ。風況マップは環境省REPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)より作成。

 前述の太陽光、風力に加えて、水力、地熱、バイオマスを加えた苫小牧市の再エネ導入目標をFigure 7に示す。太陽光は、屋根置き型と地上設置型合わせて1,063MW、風力は計画中の設備含めて838MW、バイオマスは半径50km以内からの木材調達に制限すると、輸入燃料が計画されているもの含めて143MWとなり、既設を含めた計2,271MWの再エネ導入目標を定めた。

 目標達成にあたっては、導入量の太宗を占める太陽光、風力の導入を、関係者と調整のうえ、いかに進めていくかが重要となる。

Figure 7 再エネ導入ポテンシャル*

*: 既設は2020年12月末時点で導入されている設備、バイオマス発電は廃棄物発電や自家発におけるバイオマス比率を考慮。再エネ比率は電力需要(GWh)に対する再エネ供給量(GWh)の割合。

ゼロカーボンシティ実現に向けて

 ゼロカーボンシティの実現に向けては、Figure 7の再エネ導入目標の実現に加え、当市のCO2排出量の約7割は電力以外であることを踏まえ、次の3点に留意すべきである。

 まず、目標とする再エネ導入が、FIT等の制度を用いて実現された場合、発電した電力が苫小牧域外で消費される可能性が高い。苫小牧域内での脱炭素を実現するためには、再エネが地元で消費されることが必要であり、地域新電力やマイクログリッドを通じて地産地消を推進する仕組みを早期に構築すべきである。

 また、Figure 2で示したとおり、CO2排出量の約7割は電力以外であり、このうち電化できない領域については、苫小牧で進む水素やCCUS事業と連携し、水素やe-メタンなどカーボンニュートラル燃料の導入を推進すべきである。

 上記に加えて、断熱性向上等の省エネ施策、公園や街路樹の整備によるヒートアイランド現象緩和、EV充電インフラ整備による運輸セクターの電化等の包括的な脱炭素施策の実行を通じ、苫小牧市民の豊かな生活とゼロカーボンシティの実現を図るべきである。

Figure 8 民生部門の脱炭素化

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