我が国の太陽光オフサイトPPAの現状

太陽光発電協会からの委託を請け、我が国におけるオフサイトPPAの実態調査を実施しました。
コスト構造や需要家の便益を明らかにし、オフサイトPPAの一層の推進に向けた政策を提言しました。

エグゼクティブサマリー

  • EPIは太陽光発電協会(JPEA)から委託を請け、太陽光オフサイトPPAのコスト構造、契約形態、売電価格、補助金の効果を分析した。
  • 2023年は燃調費が高騰したことも一因となり、補助金を加味すれば、発電事業者、小売事業者、需要家の全てにコストメリットが生じていることが分かった。
  • オフサイトPPAはFIT制度に依存せずに民間主導で太陽光を導入できるスキームであり、現時点では補助金が無ければ事業性が成立しにくいが、継続的なコスト低減と環境価値が高まることで、いずれ補助金が無くとも自立して普及していくとみられる。
本稿は「需要家主導により太陽光発電導入促進に関する調査」のサマリーです。詳細レポートはページ下部よりご覧ください。

イントロダクション

 都市部など需要家の敷地内における再エネ導入に制約がある我が国において、オフサイトPPAは需要家が主体的に再エネの導入を進めることができる優れたスキームである。本スキームは、発電事業者にとっては非FIT電源の売電価格を長期間固定でき、小売事業者においては再エネを固定価格で長期間調達でき、需要家は再エネを電気料金より安価に購入できることから、経済合理性の観点からも普及の兆しが見えている。

 オフサイトPPAの一層の普及に向け、経済産業省では2022年から「需要家主導による太陽光発電導入促進補助金」の補助事業を開始した。当該事業の一環として、EPIは太陽光発電協会(JPEA)から委託を請け、太陽光オフサイトPPAのコスト構造分析を2023年より行っており、バリューチェーン毎の収支や補助金の効果を明らかにした。

我が国における太陽光発電コストの内訳と推移

 太陽光発電コストの分析結果をFigure 1に示す。我が国における高圧地上設置型の太陽光発電の発電原価は、2020年運開の発電所で13.1円/kWh*1であった。EPIが2023年運開の高圧地上設置太陽光のコストを分析したところ、発電原価は11.0円/kWhとなり、主に設備費と工事費の低下により、2年間で2.1円/kWh、年率換算で5.7%のコスト低減が進んでいる。我が国が2030年に目指す7.0円/kWhの発電原価を達成するためには年率換算で6.2%のコスト低減が必要であり、一層のコスト削減を継続していく必要がある。

Figure 1 コスト低減目標の検証*²

*1: JPEA「太陽光発電コスト低減可能性調査報告書(2022年2月25日)」を参照。 *2: 2020年に運開した高圧山林のLCOEについて、本事業の高圧地上設置と同条件でLCOEの比較をするにあたり、山林から地上設置に変更した場合のコストダウンを見込んでコストを補正したLCOEと、本事業の高圧地上設置のLCOEとの差を分析した。なお、LCOE算出方法は発電コスト検証ワーキンググループに倣った。また、運転期間は20年で統一した。

太陽光オフサイトPPAの収益性

 Figure 2に太陽光オフサイトPPA事業に関係する、発電事業者、小売事業者、需要家の収益性分析結果を示す。高圧需要家向けの太陽光発電コストは10.5円/kWhであるが、補助金適用により3.5円/kWh低下し、補助金適用後の発電コストは7.0円/kWhである。発電事業者から小売事業者への売電単価は10.9円/kWhであることから、発電事業者は3.9円/kWhのマージンを確保できている。


 小売事業者から需要家への小売単価は21.6円/kWhであり、ここから発電単価10.9円/kWh、送電ロス0.4円/kWh、発電インバランス1.0円/kWh、託送費5.9円/kWhを引くと、小売事業者のマージンは3.4円/kWhと考えられる。なお、発電インバランスは、アンケートやヒアリングを基にEPIが推計した値である。

 需要家は、旧一電の標準電気料金25.5円/kWhと比較した場合、オフサイトPPAの小売単価は21.6円/kWhであり、3.9円/kWhのコストメリットを得ている。

 結果として、補助金3.5円/kWhの投入に対し、発電事業者、小売事業者、需要家の全事業者で計11.3円/kWhに相当するマージンやコストメリットが得られており、補助金が効果的に機能していることが示された。

Figure 2 オフサイトPPA事業の収益性(本補助金採択事業者のうち高圧需要家向け事業の平均値)

*1: 太陽光第11回入札結果の最低価格。 *2: JEPX東京・関西の平均単価(2021年9:00-17:00平均)。 *3: 2021年5月12日電力・ガス取引監視等委員会「発電側課金の見直しについて」より、太陽光発電の設備利用率を14.2%とした場合(0.97円/kWh) を採用した。 *4: 法人税や管理費の他、発電設備の撤去・廃棄費用や資金調達コスト、小売事業者の販管費や需要側インバランスコストを含む。 *5: 2023年1月時点(値上げ前)の電気料金で計算した。 *6: 発電側課金の導入により需要側託送費の従量料金が低下する。高圧託送料金の平均である5円/kWhの1割に相当する0.5円/kWhを託送費の従量料金から差し引いた値を採用した。

太陽光オフサイトPPAの普及可能性

 このように、現時点では補助金により太陽光オフサイトPPAの経済性が担保されているが、今後のコスト低減により、いずれ自律的に普及していくと期待されている。そこで本調査ではFigure 3に示すとおり、2030年におけるオフサイトPPAのコストイメージを推計した。

 まず太陽光発電コストが順調に下がり、政府が掲げる2030年の太陽光コスト目標7.0円/kWhを達成できると仮定する。また、発電事業者及び小売事業者がオフサイトPPA事業のオペレーションを最適化することでマージンが各々2.0円に減少すると見込んだ場合、オフサイトPPAの小売単価は19.2円となる。

 一方、比較対象の電気料金の前提として、本調査を実施した2023年1月時点の電気料金体系が続き、インフレは無いものと仮定する。この場合、仮に燃調費が0円/kWhに低下しても、環境価値が4.3円/kWh以上になれば、標準電気料金よりオフサイトPPAのほうが安価となり、オフサイトPPAは補助金が無くとも普及する可能性が高い。

 以上の分析より、オフサイトPPAは現時点では補助金がないと成立は難しいが、継続的なコスト低減と環境価値が高まれば、いずれ補助金が無くとも自立して普及していくとみられる。
 

Figure 3 需要家のコストメリット(高圧:2030年イメージ)

*1: 2021年5月12日電力・ガス取引監視等委員会「発電側課金の見直しについて」より、太陽光発電の設備利用率を14.2%とした場合(0.97円/kWh)かつ、将来は割引地域に選択的に太陽光が導入されると想定し、割引を考慮した0.8円/kWhを採用した。 *2: 将来の効率化を見込んだグロスマージン(資金調達コスト、廃棄・リサイクル費用、インバランスコスト、販管費等を含む)。*3: オフサイトPPAと標準電気料金を同一条件で比較するにあたり、標準電気料金の基本料金は託送費のみ考慮した。*4: 2023年1月時点(値上げ前)の電気料金で計算した。
本稿は「需要家主導により太陽光発電導入促進に関する調査」のサマリーです。詳細レポートは以下リンクの一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)のウェブサイトより、メールアドレス等の情報をご入力のうえ、ダウンロード頂けます。

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レポート概要

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  • 収益モデル
  • 事業戦略への示唆