世界の電気保安業界最前線 2025

我が国と世界の電気保安の制度からその実態、テクノロジーを活用した
スマート保安の最新動向など包括的な業界分析レポートをお届けします。

    エグゼクティブサマリー

    • 電気保安とは電気設備の安全を維持していくための一連の活動を指すものであり、電気保安協会全国連絡会は2021年から2024年にかけて諸外国の電気保安の実態の委託調査を実施した。
    • 我が国では法令で定期点検を有資格者が実施することを求めることで安全を担保しているが、米国・英国・ドイツでは定期点検の頻度は法律上定められていない。一方で、これら国では事故発生時に定期点検を怠っていれば労働安全や保険規則にて罰則が適用されることから、それを回避するため実態としては各国の技術基準に準拠した点検が実施されている。
    • 諸外国と比較すると、我が国の感電による死者数は1億人当たり12人と低く、我が国のメンテナンスの品質の高さを裏付けている。一方で、定期点検の頻度は高いことから、我が国ではより多くの工数が割かれていると考えられる。
    • 欧米で採用が進む需要家設備に係るスマート保安技術は、大きく故障予知・省力化・復旧自動化・原因追及に分類され、現場での点検等の工数を削減する効果が期待できる。
    • 我が国では厳格な保安制度により保安品質は担保されているが、人材不足に対応するため、諸外国で導入されているスマート保安技術の導入を推進し、保安品質の更なる向上と効率化を実現すべきである。
    本稿は、「世界の電気保安業界最前線 2025」の抜粋です。レポート全編をご覧になりたい方は、ページ下部よりダウンロードください。

    各国の電気保安制度

     電気保安とは電気設備の安全を維持していく一連の活動を指すものであり、本調査では我が国の保安の一層の品質向上に向け、米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、イタリアの電気保安制度と実態を調査した。
     まず、我が国では需要家設備の定期的なメンテナンスを行うこと、及び工事・竣工検査及びメンテナンスは国家資格保有者が実施することを法律で定めており、それらにより保安を担保していることが特色である(Figure 1)。

    Figure 1 日本の電気保安制度

     米国の需要家設備はPEによる設計、有資格者によるNEC規格に準拠した施工、及び州政府による竣工検査にて安全が担保されている。法規制上は検査官の資格、工事及び維持管理の監督者について要件が規定されていないが、業界慣行として有資格者による検査及び工事・維持管理の監督が実施されている(Figure 2)。

    Figure 2 米国の電気保安制度

    *設備の定期メンテナンスは法律で義務化していないが、事故発生時の罰金請求や労働組合からの訴訟回避を目的に、雇用者はNFPA70E, 70Bに準拠した維持管理を実施している。

     ドイツでは国家資格は存在しないが、DINで定義された電気士の技能レベルを事業者が遵守しており、DGUV V3規則により竣工検査及び定期メンテナンスが実施され安全が保たれている。またドイツでは労働安全衛生技術規則(TRBS 1203)にて検査資格を規定しているほか、民間企業はDIN VDEに準拠した独自の資格を従業員に付与している(Figure 3)。

    Figure 3 ドイツの電気保安制度

    *自治体施設、学校等の公共機関はDGUV Vorschrift 4にて規程されている。

     フランスでは国家資格は存在せず、有資格者による工事義務化・認定検査機関による検査義務化・定期検査義務化により保安を維持している。また国家資格は無いもののNF C 18-510で規定された電気作業のトレーニングを受講し、国等の公的機関から認可された民間企業から資格を取得することが一般的である(Figure 4)。

    Figure 4 フランスの電気保安制度

    *活線作業の場合はCOFRACの認証を取得した作業員が必要となる(労働法典4544-11)

    我が国と世界の電気保安制度の比較

     世界の電気保安制度を比較すると、主に有資格者による検査を法律で要求しているか、所有者もしくは雇用者に対して定期メンテナンスを義務化しているかの観点で違いがある。前者の有資格者による検査を義務化している国は米国、フランス、イタリア、後者の定期メンテナンスを義務化している国は日本、カナダ、フランス、イタリアが該当する。

     我が国は国家資格の有資格者による定期メンテナンスを義務化しているため、諸外国と比較して高い保安品質を維持している。我が国は日常点検、月次点検、年次点検の実施が求められるが、諸外国は点検頻度が決められていない国が多く、諸外国と比較して維持管理の工数はかかるが、その分諸外国と比べて高い保安品質を維持している(Figure 5)。

    Figure 5 諸外国と我が国の電気保安制度のサマリー(一般的なオフィスビルや商業施設などの需要家設備の場合)

    *1:英国はイングランドを対象とした場合を記載。 *2:電力を使用する事業所での労働者保護に関する政令(1962)及び電気工事実施施設での労働者保護に関する労働法(1988)

    諸外国のスマート保安

     諸外国で採用が進む需要家設備に係るスマート保安技術は大きく故障予知・省力化・復旧自動化・原因追及に分類される(Figure 6)。
     Medium Voltage(日本の高圧相当)では、事故発生前に故障を予知することが困難、中圧以上を検査可能な技術者が限られる、アクセスが困難な箇所の検査に危険を伴う等の課題に対して、故障予知や省力化を目的としたスマート保安技術が導入されている。
     Low Voltage(日本の低圧相当)では、低圧の電気回路の電気測定に手間がかかる、事故事象解消後の復旧のため現地対応の労力がかかる、様々な機器が接続されており事故発生時の原因究明に時間を要する等の課題に対して、復旧の自動化や原因追及のためのスマート保安技術が導入されている。

    Figure 6 諸外国で導入されているスマート保安技術

    *米国NY州の一般的な高層ビルを対象とした電気回路のイメージを記載した。

    提言

     我が国の電気保安制度は、定期メンテナンスと国家資格制度に基づくものであり、諸外国と比較しても厳格で、事故件数も少ないとされる。一方で、今後労働力不足が懸念されるなか、高い保安品質を維持しつつ工数を削減していく必要があると考えられる。諸外国では、故障予知や現場の省力化、故障の自動復旧、故障の原因追及を行うスマート保安の技術の導入が進んでおり、我が国においてもそれら技術の導入を推進し、一層の保安品質の向上と省力化を同時に実現する検討を進めるべきである(Figure 7)。

    Figure 7 提言

    本稿は、「世界の電気保安業界最前線 2025」の抜粋です。レポート全編をご覧になりたい方は、以下よりダウンロードください。